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福島地方裁判所 昭和24年(行)32号 判決

原告 幕田安兵衛

被告 福島県知事

主文

一、被告が昭和二三年一〇月二日原告所有の別紙第一目録(5)記載の土地についてなした買収処分は無効であることを確認する。

二、福島県農地委員会が昭和二四年一月二七日別紙第二目録記載の土地についてした訴願棄却の裁決を取消す。

三、本件訴のうち、被告が昭和二三年一〇月二日別紙第一目録の(1)ないし(4)記載の各土地についてなした買収処分の取消を求める部分は、これを却下する。

四、原告その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担としその余を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、(一)「被告が昭和二三年一〇月二日別紙第一目録記載の各土地についてなした買収処分は無効であることを確認する、又は択一的に、右買収処分を取消す。(二)福島県農地委員会が昭和二四年一月二七日別紙第二目録記載の土地についてした訴願棄却の裁決を取消す。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は昭和二三年一〇月二日原告に対し買収令書を交付して原告所有の別紙第一目録記載の各土地に対し自作農創設特別措置法(以下単に自創法という。)による買収処分をなしたが、右買収処分には次のような違法がある。すなわち、

(一)  訴外山舟生村農地委員会は、昭和二三年五月三〇日別紙第一目録記載の各土地につき自創法第一五条による買収計画を樹立したのであるが、当時同法第六条所定の公告手続をとらなかつたのであるから、右買収計画は無効であり、これに基く本件買収処分も違法であつて、無効であるか、若しくは取消さるべきものである。

(二)  仮りに右主張が容れられないとしても、被告は別紙第一目録記載の各土地をいずれも自創法第一五条第一項第二号の採草地として買収したものであるが、この内(1)の土地は本件買収当時原告が自作していた畑であり、(2)ないし(5)の土地は他に賃貸していたけれども、これは原告又は同居の家族の公務就任、応召等の理由に基く一時賃貸であつて、本来原告の自作地であるからこれらの土地に対する各買収処分は、自創法第一五条にいわゆる買収の対象となり得ないものを買収した違法がある。よつて別紙第一目録記載の土地に対する買収処分は、無効であるか若しくは取消さるべきものである。

二、山舟生村農地委員会は、昭和二三年八月一三日原告所有の別紙第二目録記載の土地につき自創法第一五条第一項第二号により採草地として買収計画を定め公告したので原告は同年八月二五日異議の申立をしたところ、同委員会は同年一一月二〇日これを棄却したので、原告は同月二九日福島県農地委員会に訴願したが同委員会は昭和二四年一月二七日右訴願を棄却し、右裁決書は同年三月一三日原告に送達された。

しかしながら、右買収計画樹立当時に本件土地には収穫の最盛期にある柿及び椿の木が数本生立し、特に柿は毎年二〇貫以上もの収穫をあげている実状であるに反し、採草地としては何等の価値もないのであるから別紙第二目録記載の土地は果実の採取を主たる目的とする農地であつて、採草地をもつて目すべきものではない。しかも、原告はかつてこの土地を何人にも賃貸したり使用収益させたりした事実はなく、自ら毎年前記の柿や椿を収穫してきたのである。よつて、別紙第二目録記載の土地は自創法第一五条による買収の対象とはなり得ないものである。

以上の次第で、山舟生村農地委員会の樹立した前示買収計画は違法であり、この買収計画を支持して原告の訴願を排斥した福島県農地委員会のなした本件裁決もまた違法であるから取消を免れないものである。

と陳述した。

被告訴訟代理人は、原告の請求中、別紙第一目録記載の各土地に対する買収処分の取消部分については訴却下の判決を、その余の請求部分については請求棄却の判決を求め、本案前の抗弁として、

一、別紙第一目録記載の各土地に対する買収処分の取消を求める訴は法律に定められた出訴期間を経過した後に提起されたものであるから、不適法な訴として却下すべきである。

二、訴外山舟生村農地委員会は、別紙第一目録記載の土地につき買収計画を樹立した際、これを公告するとともに同委員会の事務所で一般の縦覧に供したところ、原告から適法な異議の申立があつたので、同委員会はこれを棄却する旨の決定を与えたのであるが、右決定に対してはその後原告から訴願の申立がなかつたので、本件取消の訴は、訴願前置の要件を充足しない不適法な訴であるから、却下すべきものである。

と述べ、本案に対する答弁として、

請求原因第一項中、訴外山舟生村農地委員会が原告所有の別紙第一目録記載の各土地について自創法第一五条による買収計画を樹立したので昭和二三年一〇月二日被告が右買収計画に基き原告に対し買収令書を交付して買収処分をなしたことは認めるが、その余の原告主張事実は争う。山舟生村農地委員会は右買収計画樹立当時自創法第六条に基きこれを公告((1)ないし(4)の土地については昭和二三年五月三一日)し、且つ、縦覧((1)ないし(4)の土地については昭和二三年五月三一日から翌月一〇日まで)にも供している(このことは、当時原告から右買収計画に対し異議の申立があり、山舟生村農地委員会が棄却の決定をなしていることによつても明らかである。)から、本件買収処分には、原告主張のような違法はない。

請求原因第二項中、訴外山舟生村農地委員会が原告所有の別紙第二目録記載の土地につき自創法第一五条第一項第二号該当物件として買収計画を定めこれを公示したこと、右買収計画に対し原告が異議の申立をしたので(これは昭和二三年一一月一〇日である。)、前示委員会がこれを棄却し(これは同年一一月二一日である。)たところ原告は更に福島県農地委員会に訴願したが、同委員会は昭和二四年一月二七日訴願棄却の裁決をなし、右裁決書が同年三月一三日原告に送達されたことは認めるが、その余の原告主張事実は争う。

別紙第二目録記載の土地は、福島県梁川町(当時山舟生村)大字山舟生字浜井場七五番のイ畑八畝二四歩の附帯地たる畦畔(土堤)もしくは石溜場(右畑から出る大小の石礫を溜め集めておくところ)であつて、右畑を離れては存在価値がなく、右畑にとつては不可欠の要地であるとともに、右畑の賃借耕作者である訴外八巻久重が大正一五年以降畑とともに賃貸借権又は使用貸借による権利に基いて採草利用して来た土地である。そして右畑はもと原告の所有であつたが、自創法によつて政府が買収し、昭和二二年一〇月二日八巻久重に売渡したものであつて、その後一年以内である昭和二三年五月二〇日、同人から別紙第二目録記載の土地の買収方申請があつたので、被告はこれを相当と認め、自創法第一五条第一項第二号の農業用施設等のうち牧野として買収したのである。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、第一目録関係

訴外山舟生村農地委員会が原告所有の別紙第一目録記載の各土地について自創法第一五条による買収計画を樹立し、昭和二三年一〇月二日被告が原告に対し買収令書を交付して右土地につき買収処分をなしたことは、当事者間に争がない。

(一)  無効確認請求についての判断

(1)  原告は、訴外山舟生村農地委員会は本件五筆の買収計画につき、自創法第六条所定の公告手続をとらなかつたと主張するから、まずこの点につき考えてみるに、成立に争のない乙第一号証の一ないし八の記載を綜合すると、訴外山舟生村農地委員会は昭和二三年五月三一日別紙第一目録記載の(1)ないし(4)の四筆についての買収計画を公告し、同年六月一〇日まで同委員会事務所において一般の縦覧に供したので同年六月一〇日原告から異議の申立があり、同月一五日申立棄却の決定があり、右決定書は同月一七日原告に交付されていることを認めることができる。右認定に反する原告本人尋問の結果は前掲証拠と対比して措信し難く、他に右認定を妨げる証拠はない。

しかし、別紙第一目録(5)の土地については買収計画の公告があつたことを認めるに足りる何等の証拠もない。(なお、前掲乙第一号証の一ないし八、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、本件土地については、前掲(1)ないし(4)の土地とは異る時期に買収計画が樹立されたものと認められる。)、おもうに自創法による買収処分において買収計画の公告があつたことについての立証責任は、買収処分が有効に行われたことを主張する被告行政庁においてこれを負担すべきものと解すべきであるから、この点につき何等の証拠のない本件においては自創法第六条所定の公告はなかつたものといわなければならない。そして同法に基く買収計画は右公告手続を経てはじめて法律効果を発生するものであるから、これを経ない買収計画は無効であり、従つて右買収計画に基いてなされた本件買収処分は、その余の点について判断するまでもなく、無効のものといわなければならない。

(2)  別紙第一目録(1)の土地は当時原告が自作していた畑であるかどうかにつき案ずるに、前示乙第一号証の二及び七の記載によると、本件土地は、同法第三条第一項第三号により小作地たる畑(現況)として買収されたものであることが認められるのであつて、右認定に反する証拠はないから、別紙第一目録記載(1)のの土地が自創法第一五条の採草地として買収されたことを前提とする原告の主張は採用できない。

更に原告は、(1)ないし(4)の土地は、当時他人に賃貸していたけれども、これは一時賃貸であるから、自創法第一五条による買収の対象となり得ないと主張する。しかしこれ等の土地の賃貸が一時賃貸であるとする原告本人尋問の結果は弁論の全趣旨に照らし採用し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はないのみならず、これらの土地に対する一時賃貸を通常の賃貸借と認定をあやまつたとしても、右は取消の事由たりうることがあるにとどまり、買収処分を無効ならしめる程度の瑕疵とは認められないから原告の右主張は採用できない。

(二)  取消請求についての判断

別紙第一目録記載の土地に対する前記無効確認請求と本件取消請求とは択一的な関係にあるところ、第一目録(5)の土地に関する買収処分については、前叙の理由でこれを無効とすべきものであるから、以下(1)ないし(4)の土地に関する買収処分の取消請求について判断する。

被告の本案前の抗弁につき考えてみるに、原告は、第一目録(1)ないし(4)記載の各土地に対する買収処分は昭和二三年一〇月二日になされたものであると主張するところ、当時既に施行されていた自創法第四七条の二第一項によると、同法による行政庁の処分で違法なものの取消変更を求める訴は、当事者がその処分のあつたことを知つた日から一箇月、処分の日から二箇月(以上の期間はいずれも不変期間である。)を経過したときは訴を提起することができないものと定められているから、本件買収処分の取消を求める訴の出訴期間は遅くとも昭和二三年一二月一日までであることが明らかである。しかるに、本件訴が提起された日が昭和二四年三月二五日であることは当裁判所に顕著であるから、結局本訴は、自創法第四七条の二第一項所定の出訴期間を徒過して提起された不適法な訴としてその余の抗弁事由について判断するまでもなく却下すべきものである。

二、第二目録関係

訴外山舟生村農地委員会が原告所有の別紙第二目録記載の土地について自創法第一五条第一項第二号該当物件として買収計画を定め、これを公示したところ、原告から異議の申立があり、同委員会がこれを棄却したので、更に原告が訴外福島県農地委員会に訴願したけれども、同委員会は昭和二四年一月二七日訴願棄却の裁決をなし、右裁決書が同年三月一三日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争がない。そして成立に争のない乙第二号証の四の記載、証人八巻久重の証言及びこれによつて真正に成立したと認められる乙第二号証の三の記載並びに検証の結果を綜合すると、本件土地の北側隣接地たる伊達郡梁川町大字山舟生字浜井場七五番のイ畑八畝二四歩はもと原告の所有であつたが、賃借人であつた八巻久重の申請に基き政府がこれを自創法によつて買収し、昭和二二年一〇月二日政府から同人に売渡したので八巻久重はこれが自作農となつたこと、そして同人は昭和二三年五月一九日更に本件土地につき同法第一五条第一項の農業用施設として政府が買収すべき旨の申請をしたことが各認められる。

そこで前記訴願棄却の裁決の当否につき案ずるに、自創法第一五条第一項第二号の物件を買収するには、申請者において当該物件について賃借権、使用貸借による権利若しくは地上権其の他の使用権を有することが要件とされているところ、買収申請者である八巻久重が本件土地について前記のような権利を有していたことについてはこれを認めるに足りる何等の証拠もなく(もつとも前記八巻久重の証言によると、同人は本件土地を石溜場として使用し或は時折本件地上から採草していたことがうかがわれるが、弁論の全趣旨によると右使用関係は本件土地の所有者たる原告との契約に基くものでないことは勿論法定の権利に基くものではなく、本件土地が八巻久重の住宅や耕作地に接している関係上同人が事実上石溜場としたり採草したりしていたに過ぎないのであつて、却つて柿や椿は原告において毎年採取していたことが認められる。)、右の賃借権等の権利の存在についての立証責任は、買収計画の有効であることを主張する被告においてこれを負担すべきものであるから、結局本件土地については右八巻久重において賃借権その他の権利はなかつたものというべく、従つて本件土地は自創法第一五条第一項第二号による買収の対象となり得ないものであることが明らかである。してみれば別紙第二目録記載の土地についての買収計画はこの点において違法であり、これを支持した本件訴願棄却の裁決もまた違法であつて、到底取消を免れないものである。

三、以上の次第で、原告の本訴請求は別紙第一目録記載(5)の土地に対する買収処分の無効確認と別紙第二目録記載の土地に関する訴願棄却の裁決の取消を求める限度では正当として認容すべきであるが、第一目録記載(1)ないし(4)の土地についての買収処分の取消を求める訴はいずれも却下し、その余はこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 檀崎喜作 小堀勇 佐々木泉)

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